フローサイトメトリーのデータ解析は、基本的にゲーティングによって行います。 ゲート(Gate)および領域(Region)は、共通の特徴(通常、前方散乱、側方散乱およびマーカー分子の発現量)を有する細胞集団の周囲をバー(Bar)、丸・楕円(Ellipse)、四角(Rectangle)、多角形(Polygon)、4象限(Quadrants)などのツールを用いて囲み、その集団の解析や定量を行います。 ここでは、一般的なフローサイトメトリーのグラフ出力がどのように見えるか、および蛍光色素標識抗体で染色された異なる細胞集団を簡単な手順で確認する方法を示します。 本書に加えて、簡単な解説として"Gates, Plots and Regions"を別途用意しています。
ゲーティングでは、通常、始めに細胞の前方散乱(FSC)および側方散乱(SSC)特性に基づいて細胞の集団を区別します。 前方散乱および側方散乱は、サンプル、レーザーの波長、サンプルおよびシース流体の収集角度および屈折率などのいくつかの要因に依存しますが、細胞のサイズおよび粒度を見積もることができます。 細胞の集団を区別することは、細胞の種類が1種類しかない細胞株では比較的単純ですが、複数の細胞種が混在するサンプルではより複雑になることがあります。
図13のデンシティープロット(ドットプロット)に見られるように、溶血処理した全血にはいくつかの異なる集団があります。赤~黄色~緑~青で示したホットスポットは、それぞれの細胞集団に由来して増えるイベント数を示しています。散乱光パターンから、顆粒球、単球およびリンパ球を、細胞破片および死細胞から区別することができます。 細胞片(debris:デブリ)や死細胞はしばしば前方散乱のレベルが低く、密度プロットの左下隅にあります。 これらの不要なイベントは、前方散乱の閾値を高く設定したり、または目的の細胞集団をゲーティングすることによって除去できます(図13A)。 図13BのCD45 Pacific Blueに示すように、蛍光と前方散乱または側方散乱の組み合わせとしてデータをプロットすることもできます。 前方散乱および側方散乱ゲーティングは、自家蛍光[第5章-2参照]および抗体の非特異的結合を増加させた死細胞を除去するためにしばしば使用されますが、細胞生存率試薬(viability dye) [第5章-3参照]を使用する方がより確かな方法です。フローサイトメトリーのデータ解析はゲーティングの原理を基本としています。目的とする細胞集団のみを選び出すため、蛍光・散乱光プロットやヒストグラムにゲート、ないしはリージョン(領域)を設定します。そして、このようなゲートを特定の細胞集団を視覚化し、解析するために利用することができます。
通常、ゲーティングで最初に行うのは、細胞の光散乱特性を利用した細胞の識別です。たとえば、前方散乱により推定される相対的な大きさから、細胞片(debris)と個々の細胞を区別することができます。また、死細胞は生細胞よりも前方散乱が低く、側方散乱が高い傾向にあります。溶血した全血サンプルの細胞解析はゲーティングの最も一般的な応用例です。図13は大量の細胞をSSCとFSCで解析した代表的なグラフです。顆粒球、単球およびリンパ球の異なる光散乱シグナルをもとに、各細胞集団に分けたり、デブリ(細胞片)と区別したりすることが可能です。
ソフトウェアによっては、イベントを密度情報が示されていないドットプロットとして、またはイベントの密度の相対強度を示す等高線プロット(Contour Plot)として表示することもできます。 等高線プロットの例を図14に示します。
どのような表示方法が望ましいかは、ユーザの好みにもよりますが、等高線プロット(Contour Plot)の方が、個々の細胞集団の視覚化に適している場合があります。